ジェシカがドクター・ユエの嘘を見破っていなかったら、一体どうなっていただろうか。この机の前に座っているのは、あの「けだもの」だったかもしれない。奴の窓の下で、わしの遺体は干からび朽ちていき、娘はあやつの性悪な弟君の妾の立場を強制されていただろう...

だが、我々は戦いに勝利した。罠を張り、じっと待ち、予想通りの時期に、予想通りの場所に、ハルコンネンが現れた。だが、奴らは仲間を引き連れていたのだ。その仲間の一部が、サーダカーだった。危うく勝利をつかみ損ねた。アラキーンの大部分が失われてしまったが、夜が明けるころには戦いに決着がつき、アトレイデス家は勝利を収めた。

修女会は、皇帝の関与を知っていたはずだ。それならば、我が領家に警告して、修女会に何のメリットがある？それとも、レディ・ジェシカは修女会の計画に反して、警告を発したのだろうか？自らの意思で、アトレイデス家を選んでくれたのだろうか？

8年の時が経った。戦争は思惑通りに進んでいる。アトレイデス家とハルコンネン家は、備蓄をかなり切り崩しているようだ。素材、資源、人員を探し回り、何とか持ちこたえようと必死だ。脅威である2つの領家が、たった一度の制限付きの戦争で、腹を空かせた貧乏人に落ちぶれてくれるとは。香料の流れは順調だ。それがすべてだ。

戦争を長引かせるに越したことはないが、正式な任命を受けた移封監察官として、アラキスを去り、自ら皇帝に謁見する機会は、ほとんど皆無だ。以前ほど、皇帝にひそかに耳打ちできる立場にない。影響力というものは、慎重かつ継続的な管理を必要とする。皇帝への助言の機会が減少していけば、別の者が皇帝の懐に入ってしまうのではないか、と不安で仕方ない。アラキスの状況をコントロールすることができていれば、皇帝は引き続き、私を引き立てくれるだろう。だが、うまく立ち回る必要がある。

アリステがアラキスにいる。思った通り、埃っぽい退屈な砂漠と愛するお父様から、離れられなかったらしい。砂漠で一般市民と浮かれ騒いでるよ。反吐が出るぜ。いまのところは、泳がせておいてやろう。この戦争が終わったら、俺が寝室に閉じ込めて出られないようにしてやるさ。今のうちに、好きなだけフレメンごっこをしていればいい。

アラキーンに身を隠していないのは好都合だ。時が来たらアリステを捕まえて、交渉材料として利用すればいい。ハルコンネンは湯水のように資源を使っている。だが、俺たちの無慈悲な姿勢が実を結び始めている。アトレイデス家は、すでに膝を地につけているようなものだ。この惑星で生き延びるには柔すぎる。長くは持たないだろう。

子供はいつか成長しなきゃならない。その日が来たら、アリステも俺との婚約を破棄したことを後悔するだろう。俺に恥をかかせておいて、ただじゃ済まさない。